《松田正久先生のご講演内容の報告をいただきましたー後半その1》(2017年8月18日)


 松田先生のご講演後半の要約をいただきました。憲法にかかわる内容は、各条文にかかわる問題も含めて、掲載させていただきます。

 (後半部分-その1)

 5.教育と日本国憲法
 憲法の二つの柱に注目する。

 1.不戦・否戦・非軍事の誓いー憲法9条、特に2項
・・・戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
 2.前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

 2.基本的人権 (以下に11条と13条を挙げる。)
 国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。 (11条)
 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。(13条)

 13条を、自民党草案(2012年4月27日決定)と比較してみよう。

 (草案)
 全て国民は、人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公益及び公の秩序に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大限に尊重されなければならない。

●これは、人権条項の根幹をなす条文で、国際的取り決めに共通する根源的条項が掲げられる部分であるが、憲法と自民党草案の間には大きな相違点がある。以下の理由により、自民党草案では、「国民は動物として尊重される」という意味になる。

13条においては、【個人】(国家や社会や種々の集団に対して,それを構成している個々の人。一個人。私人。また,地位・身分などと切り離したひとりの人間(大辞林)。)と掲げられているが、自民党草案では【人】(=ヒト いわゆるHomo sapiens ホモ・サピエンス あるいは Homo sapiens sapiensホモ・サピエンス・サピエンスとされている動物としての霊長類サル目ヒト科ヒト属)と記されており、これによれば、国民は動物として尊重されるという意味となる。

以下、同様に比較する。
(19条)
思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。
(草案)
思想及び良心の自由は、保障する。
2 何人も、個人に関する情報を不当に取得し、保有し、又は利用してはならない。
【注】「侵してはならない」と「保障する」とは、主権がどこにあるのか本末転倒。国民主権の憲法の用語ではない。自民党案では、「保障する」のは、「国家」と読める。 「これを」をとることにより、対象を曖昧にする効果がある。「これを侵してはならない」は、社会全体として、という意味が込められている。憲法は「国家権力」を規制する最高法規であり「社会的規範」である(と思う)。
23条 
学問の自由は、これを保障する。
(草案)
学問の自由は、保障する。
26条
すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
2 すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。
(草案)
全て国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、等しく教育を受ける権利を有する。
2 全て国民は、法律の定めるところにより、その保護する子に普通教育を受けさせる義務を負う。義務教育は、無償とする。
3 国は、教育が国の未来を切り拓ひらく上で欠くことのできないものであることに鑑み、教育環境の整備に努めなければならない。
【注】安倍首相は自衛隊とともに「高等教育の無償化」を憲法に加えると言う。「高校教育」の無償化を歪めたのは、当の自民党であった。3は、1、2の実現をめざせば、無用のもの。

 (その2に続く)

 《松田正久先生のご講演内容の報告をいただきましたー後半その2》

 (後半部分-その2)

 【私の考える憲法とは何か】

立憲主義に基づき、政府(政治統治機構)が遵守すべき規範を定めたものが憲法であり、その国の最高法規(98条)であり、すべての法の最高位に位置する。
憲法は権力を制限する規範であることが民主主義社会での国際的共通理解であり、これを踏まえることこそが「グローバル化」の前提となるべきである。
「自民党憲法草案」は、権力者が国民を縛る、あるいは国民に強いる規範という立場で一貫しており、およそ国民主権を基礎に置く「憲法」と称するものではない。
99条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。
これまでの政府は、本当に「日本国憲法」の実現のために努力してきただろうか?→No!

 6.これからの世界と日本

 安倍「亡民」政権と教育問題

●立憲主義の否定・・・
 ・国家安全保障会議設置、
 ・特定秘密保護法(2013年12月)、
 ・武器輸出三原則の撤廃、
 ・集団的自衛権容認の閣議決定(2014年7月1日)と「戦争 法 (2015年9月19日) 、
 ・原発再稼働と原発輸出、
 ・共謀罪(2017年6月15日、7.11施行)、
 ・憲法「改正」

●教育「改革」と教育再生会議

 1. 初等中等教育と教育行政
  学制改革(6・3・3・4制)、「道徳」教科化、教育委員会改革、小学校「英語」導入、教育勅語容認の閣議決定
 2. 高等教育
入試制度、学校教育法・国立大学法人法改悪、大学間格差の拡大

●科学技術と産官学・軍学共同の推進

【樋口判決と憲法】
 大飯原発3,4号機差し止め裁判訴訟
・生存を基礎とする人格権が・・・最高の価値を持つとされている以上、本件訴訟においても拠って立つべき解釈上の指針
【共謀味の成立】
【日本学術会議の役割】
・1950年「戦争を目的とする科学の研究は絶対のこれを行わない」、67年「軍事目的のための科学研究を行わない」の両声明を継承

 7.大学の自治の再生と大学からの平和

・広く教育の機会均等が保証された中で行われなくてはならない(世界人権規約)
・教養教育の重視と基礎学問の重視(科学・技術の知と社会・人文科学の知の融合)
・大学は常に社会に対し批判的機能を果たすこと
・未来を語れる教育の実現(学生も教員も職員も)

・欧州の経験に学ぶ:学生参画保証の法律の制定
・学生は自主的主体的活動の推進主体で学生を大学の中心に据えること
・研究倫理基準で研究者の研究を大学として規制

●人間の尊厳の場としての大学づくり
・教育アクセスの平等化を追求
・大学の自治は、あらゆる権力、権威、資本から自由であること
・全ての大学構成員が参加する自治、全構成員自治の実現=大学再生の道:「教授会の自治」を超克した新しい自治概念の形成

●私たちは何に期待するか
・憲法9条のみならず憲法全ての実現をめざす。
・未来に負の遺産を残さない(原発から出る核廃棄物、国の借金、・・・・)
・普通の人々が普通に暮らせることこそ国富(人格権)、人格権がすべてに優先(憲法25条)
・その保障のためには、教育こそすべて。教育を通じて未来の担い手を育てることで、私たちの将来を次の世代に託すことが出来る。
・人民の力の偉大さは世界の歴史から学ぶことが出来る・・・国民世論は「戦争をする日本」を拒否している。