《小中一貫教育に関しての認識があまりに低すぎるのではないか?》(2016年8月20日)


 福岡教育大学のホームページに記載されている「福岡教育大学教育学部入学者選抜方法についてのQ&A」において、いくつかの質問に対する答えが提示されています。

 「教員採用選考試験や小中一貫教育において中学校教諭免許状を所持していないことが不利にはなりませんか。」という質問に対する答えの一部に、以下のような文言があります。
「小中一貫教育は,小学校教員と中学校教員が相互の教育活動を理解し,子供の情報等の共有や連携を適切に図り,円滑な教育にあたろうとするものであり,教員の特定の教科等の知識技能を高めようとするものでも,小学校の教員,中学校の教員に両免許状を取得させることを主目的とするものでもありません。平成28年度からは,新しい学校種として小学校,中学校とは別に『義務教育学校』が設けられていますが,両免許状を所持していないと勤務できないとの制度にはなっていません。」

 小中一貫教育は子どものためのものであり、「教員の特定の教科等の知識技能を高めようとするものでも、小学校教員、中学校教員に両免許状を取得させることを主目的にするものでもない」ことはあまりにも当然で、なぜこのようなことをあえて言うのか、まったく理解できません。 「義務教育学校」については、 文部科学省のホームページ で概要が示されています。

 さらに、「両免許状を所持していないと勤務できないとの制度にはなっていない」という文言は、実は正確ではありません。文部科学省が昨年度通知し、今年度4月1日から施工されている学校教育法の一部を改正した法律の中で、小中一貫教育については、教員は「当分の間」はどちらかの免許でも可としており、基本的には小学校・中学校両免許の併有とすることを規定しているのです。

 

 文部科学省は、平成27年7月30日付で 「小中一貫教育制度の導入に係る学校教育法等の一部を改正する法律について(通知)」を出しています。 その中には、教育職員免許状についての改正も含まれ、以下のような内容となっています。(8頁)

第四 教育職員免許法の一部改正(改正法第5条)
1 改正の概要
① 義務教育学校の教員については,小学校の教員の免許状及び中学校の教員の免許状を有する者でなければならないものとしたこと。(第3条関係)
② 小学校の教諭の免許状又は中学校の教諭の免許状を有する者は,当分の間,それぞれ義務教育学校の前期課程又は後期課程の主幹教諭,指導教諭,教諭又は講師となることができるものとしたこと。(附則第20 項関係)
2 留意事項
① 都道府県教育委員会は,他校種免許状の取得のための免許法認定講習の積極的な開講やその質の向上等により,小学校及び中学校教員免許状の併有のための条件整備に努めること。
② 都道府県教育委員会は,免許状の併有を促進する場合において,併有の促進が教員の過度な負担につながらないよう配慮すること。

 つまりこの通知の中で、義務教育学校の教員は、「小学校の教員の免許状及び中学校の教員の免許状を有するものでなければならない」と明確に規定されています。「当分の間」はどちらかの免許を有していれば勤務できるということは書かれていますが、都道府県教育委員会は、両免許併有のための条件整備に努めることが留意事項としてつけられており、義務教育学校に勤務する教員は、小学校・中学校両免許の併有を求められるようになることが明らかです。

 すでに昨年通知されているこの内容については、このようなことが想定されていたため、佐賀大学のように「小中連携教育コース」型の改革を進めるところが増えているわけです。

 今年度、初等教育教員養成課程に入学した学生が教員になるのは、早くて4年後です。「当分の間」どちらかの免許でよいと文部科学省が言っているのだから、将来義務教育学校教員になるにしても、とりあえずは小学校免許だけでいいのだ、という福岡教育大学の言い分はあまりに無責任すぎませんか。

 上記の「通知」のなかには、次の留意事項も記載されています。(4頁)

 「平成18 年の教育基本法改正,平成19 年の学校教育法改正により義務教育の目的・目標が定められたこと等に鑑み,小学校・中学校の連携の強化,義務教育9年間を通じた系統性・連続性に配慮した取組が望まれる。(中略)また,今回の制度化は,小中一貫教育を通じた学校の努力による学力の向上や,生徒指導上の諸問題の解決に向けた取組,学校段階間の接続に関する優れた取組等の普及による公教育全体の水準向上に資するものと考えられる。以上のことから,各設置者においては,今回の改正を契機として,義務教育学校の設置をはじめ,小学校段階と中学校段階を一貫させた教育活動の充実に積極的に取り組むことが期待される。」

 このことから、今回の制度改正の趣旨としては、単に義務教育学校という選択肢が一つ付け加わった、ということではなく、小中一貫教育・小中連携による教育の水準向上が目指されていると言えます。つまり、既存の小学校の教員として採用されたとしても、小学校・中学校の免許の併有が有効に機能すると考えられるのです。

 このことからすると、初等教育教員養成課程の学生が中学校免許を取得することを極めて困難にする福教大の改革は、
①学生が新設の義務教育学校に就職することを困難にする恐れがあり、大学の教員採用実績を悪化させる懸念が強い
②小学校教員に仮に採用されたとしても、採用後に中学校免許の取得が望まれるため、教員就職後の負担が増える
③①②は学生・大学にとっての不利益であるが、そもそも小中一貫教育・小中連携の推進という文部科学省の政策の方向と相反しており、合理性に疑義があるという大きな問題を抱えていることが分かります。

 

 大学には、「大学の自治」があります。大学の外部からの要求や動向に対し、大学としての専門的見識に基づき、独自の施策を責任をもって行うことが可能であり、また大学としての義務でもあります。この意味では、初等教育教員養成課程の学生が中学校免許を取得することを極めて困難にする福教大の改革は、特に③との関わりで言えば、「大学の自治」を発揮したものと見えるかも知れません。

 しかし、これまで何度も述べてきましたように、こういった福教大の「改革」は、学内教員の圧倒的多数の反対を押し切って強行されたものです。「大学の自治」とは、大学の総意や、周到な検討を経てこそその妥当性が高まるものであり、学長が自分の不合理な理念を強行する口実となってはならないはずです。

 また、寺尾学長が就任後、それまで大学教員が務めていた理事の一名が文部科学省からの出向者となり、それ以外にも副学長など、文科省からの出向者が重要な役職を占めることが増えています。そうした方々は、文科省の政策動向について当然極めて明るいはずですが、福教大の以上の「改革」の問題点についてはどのように考えておられるのでしょうか。文科省の政策が誤った方向に進んでおり、それに学長や学内の教員とともに対抗しようというのであればともかく、学長の不合理な施策をもあくまで支え続けるというのであれば、文科省の目的にも、大学の目的にも背くことになるのではないでしょうか。