《初等教員養成課程のカリキュラムをこれまでと比較してみます》(2016年8月4日)


 

 前の記事で、今年度入学の初等の学生は中高免許の取得が以前と比べて遥かに困難になった、と書いてきました。今回は、このことを、カリキュラムを比較することで説明します。

 表1は、平成27年度入学生用の福岡教育大学教育学部『履修の手引』に掲載された、初等理科選修のカリキュラム表です。『履修の手引』は、学生が入学と同時に渡されるもので、卒業までの間の履修計画を網羅した冊子です。大学は、ここでカリキュラムとして示した内容を、卒業までの間学生に保障する義務があります。

<表1> 
H27-28syotourika-1

 表2(長いので2枚あります)は、平成28年度入学生用の『履修の手引』に掲載された、初等(幼児教育除く)のカリキュラム表です。

<表2>
H27-28syotourika-2
H27-28syotourika-3

 2つの表を細かく比較するのは骨が折れますが、順に見ていきましょう。

 まず「科目区分」を見ます。27年度の「教養科目」「外国語科目」「保健体育科目」は、28年度は「基礎学力修得科目」にまとめられています。元の「教養科目」18単位は、「大学入門科目」6単位と、「教養科目」6単位に分けられました。さらに「教養科目」は、2年次までと3年次からに区分されています。

 問題は「外国語科目」で、従来6単位であったものが、4単位に減らされました。しかも、従来は授業1コマが1単位で、2年次まで6コマ授業があったのが、1コマ2単位となり、1年次に2コマだけの授業となりました。授業回数は3分の1に減ったわけです。他方、「英語習得院」を大々的に始めましたので、福教大の外国語教育は正規のカリキュラムを大幅削減し、課外活動を大規模にするという、本末転倒の状況になってしまいました。他方「保健体育科目」は、「ウェルネス論」が消滅する一方、スポーツの科目は変化なしとなっています。外国語は1年で終わるが、スポーツは2年まで授業として続ける、外国語は課外でやればよいがスポーツは正規の授業でやる、というのはどういう理念に基づいているのか、理解に苦しみます。  この「基礎学力修得科目」については、初等のみならず他の課程でも同様です。

 免許取得との関わりで重大なのは、表のその下の部分です。これがどのように変化しているか、下に示します。右左は昨年度までと今年度からで対応していると思われる科目です。

 この表について、平成27年度までと平成28年度からの変化として注目すべき部分を赤字にしています。

<表3>
syotou-hikaku

 平成27年度と28年度とで注目すべきところを比較してみます。

 

 まず、昨年度までは「選修教科」が26単位ありましたが、それが今年度からは「教育内容科目」としてたった4単位にまで減らされています。例えば理科選修では、従来「選修教科」に「物理学概論」「化学概論」「物理学実験」「基礎生物学実験」などの科目があり、これらは小学校の教員にとって必要な学問としての基礎を学ばせるための科目であるとともに、小中高と学びの連携をとらえる観点から、教科に関する科目として、中高免許取得のための単位にもなっていたのです。今年度からのカリキュラムでは、こうしたそれぞれの学問領域に関する概論や、特定のテーマに関する講義は一切なくなってしまいました。これでは、中高免許が極めて取りにくくなるという以前に、学問を入門から発展まで積み上げていくという過程が全く欠けているように思われます。

 では、その減った単位はどこへ行ったのかと言うと、今年度新たに「教育者育成専門科目」16単位が設けられ、そこに移行したと言えます。ここには41種の授業(82単位分)が並べられ、ここから8種の授業を選択する必要があります。この科目群の中には、従来「教科又は教職に関する科目」として開設されていたものも散見されますが、III期(2年次前期)の「教育の最新事情」など、これまで見慣れない新設科目もあるようです。

 そして、「卒業研究」も、「課題発見・解決型プログラム 学校教育課題研究(卒業研究)」となりました。「卒業研究」という名前は残っていますが、前に長たらしい説明が加わっています。つまり、従来は、ある学問領域に関する研究であったものが、「学校教育課題」に関する「研究」に限定され、方法論としても「課題発見・解決型」でなければならない、という指示が加わったことになります。この点でも、学生にとっての自由度は狭まり、学問の探究からは離れたと言えるでしょう。

 問題は、このようなカリキュラムの改変が受験生や学生にとって歓迎されるものなのかどうかということと、大学としてはもとより、教員養成としても妥当なのかどうか、ということです。今回の記事では詳しい議論はできませんが、この2つの問題について共に大きな疑念があったからこそ、今回のカリキュラム改変に多くの教員は賛同しなかったと言えます。結局、新しいカリキュラムは、教授会での検討・審議すらされずに実行されてしまっているのです。