《結局,初等の学生は中高免許を取れるのか,取れないのか?》(2016年7月22日)


 これまで,今年度以後入学する福教大初等教育教員養成課程(以下,「初等」と略)の学生は,中高一種免許が取れなくなった,と書いてきました。この「取れなくなった」ということの内実について,より詳しく説明します。

 福教大の初等学生が卒業と同時に取得できる免許は,小学校教諭一種免許状です。このことは,以前も現在も変わりません。中学校・高校の免許が,卒業と同時に必ず取得できたわけではありません。

 ただ,以前は教科ごとの「選修制」を敷いていたため,初等の学生は,卒業要件内で,例えば理科選修なら理科の中・高免に必要な多くの教科科目を履修することができました。この「できました」という意味は,単にそれら授業の履修が認められていた,という意味にはとどまりません。

 高校まででは,クラスの生徒がみな同じ授業を受けますので,ある時限に複数の授業から自分が受ける授業を選ぶことは多くありませんが,大学では専門分野の多様性のために,非常に多くの科目が開講されており,学生は学期の初めに,開講授業一覧と「履修の手引」をにらめっこしながら,自分で時間割表を組み立てます。

 すると,必修科目と選択科目が,同じ時限に重なることが多くなります。その場合,当然必修科目を履修しなければなりませんので,選択科目は,「履修する権利はあるが,実際には履修できない」ことになります。次の年度に履修することもできますが,そういう科目がいくつも出てくると,4年間では結局履修できなかった科目が出てくる恐れが強くなります。

 従来,「選修制」のもとでは,教科ごとの選修のカリキュラムに,多くの教科科目が並んでいました。学生は,自分の選修のカリキュラムに並んでいる中・高免許取得に必要な科目を,必ず履修することができました。

 つまり,「選修制」のもとでは,学生は免許取得に必要な科目を正しく認識して,それら科目を適切に履修し単位を修得していけば,4年間で中学校高校の一種免許を取得できたのです。レールははっきりと敷かれており,その上を間違いなく走り切れば良かったのです。

 これが,昨年度までの福教大の初等学生が,中高一種免許を取得できた,ということの意味です。では,今年度からはどうなったのでしょうか。

 初等の「選修制」は廃止されました。結果,初等のカリキュラム表から,教科科目は大量に削除されました。カリキュラム表から削除されたということは,もはや教科科目の履修は保障されていないということです。また,卒業要件科目のうち中・高免取得にもカウントできる教科科目が相当減ったので,今年度以降の初等の入学生が中・高免を取得するためには履修する科目が相当増えることになります。

 ここにさらに,今年度からの福教大初等特有の問題がいくつか重なります。

 まず,中学校二種免許取得のために,学力試験を導入しました。これまでは「選修制」であったために,入学試験において特定の教科の学力を確かめることができましたが,「選修制」廃止に伴い,また推薦入試枠の増加のためもあって,必ずしも入学時に特定の教科の学力を確かめることができなくなりました。そこで,一年次の夏に,中学校二種免許取得のための授業を履修する学力があるか否か判定するため,追加で試験を行うこととなったのです。今年度入試では,「初等の学生は中学校二種免許を取得できる」と説明されていたため,この試験の成績が悪くても,絶対に履修が認められないわけではないようですが,従来と比べて大きなハードルが設けられたことは間違いありません。二種免許ですらこうなのですから,一種免許となるとさらに困難であることは当然です。夏休み時期に試験をすることも学生には最近まで知らされないままでしたし,試験をした結果,学生がどう履修することになるのか教員にも周知されないまま事態は進んでいます。説明会後に中学校免許取得を諦めたという学生の話も耳にします。

 そして、今年度、カリキュラムの大幅な改変が「見切り発車」で行われてしまったという問題があります。従来「選修制」のもとでは,1年次から4年次まで,どの科目をいつ履修するか,確実なシミュレーションが行われていました。科目を並べていても実際には履修できないとなると虚偽になってしまうからです。しかし今年度からのカリキュラムについては,教授会や教授会下の委員会,教員組織である講座で十分な審議を行わないまま,トップダウンで決定されてしまったため,こうしたシミュレーションがどれだけ厳密に行われているか,よく見えない状態になっているのです。まして,初等の学生にとって,中等免許取得のための教科科目は履修を保障されていないのですから,4年次までに履修できるのかどうか,まったく不透明であるということになります。不透明であるために,「絶対に履修できない」とも言えませんが,履修できなくても文句は言えない,という状態になってしまっています。

 これが,今年度からの初等学生にとって,「中高一種免許が取得できない」ということの意味です。確かに,より正確には,「取得できるが,極めて難しい」「4年間では保障されない」ということであって,「絶対に取得できない」わけではありません(もともと,教員免許は必要な科目を履修すれば,どの学生でも取得できるものです)。しかし,従来の「選修制」のもとでの方式と比べてみて下さい。上述のように,「選修制」のもとでの初等学生は,はっきりと敷かれたレールを走り切れば,順調に中高一種免許を取得できました。しかし今年度からの初等学生は,濃霧の中を暗中模索して,いつどこに落とし穴があるかわからず,目の前に道があるかと思うとそれもいつの間にかなくなるかも知れないサバイバルを経てやっとこさ,中学校二種免許を取得できる,という状況になったわけです。中学校一種免許や小・中・高免許取得については,さらにそのサバイバルの難度が上がり,いわば「クソゲー」の域に達していると言ってもよいでしょう。

 以上の事実を踏まえると,「取得できるが困難である,4年間では保障しない」ということの意味は,ほとんど「取得できない」と同じと言っても良い程になっているのではないでしょうか。従来の「選修制」のもとでの中高免許取得条件とは,完全に異なるものになったことがお分かりいただけると思います。これまでにも書いてきたとおり,小中連携の情勢や,他大学の動向も踏まえ,学生に不利になりかねない改革に教授会などで反対してきましたが,教授会審議を覆す形で決定がされました。それ以降も,高校等からの問い合わせに答えるためにも,時間割を示すよう要求してきましたが,現段階でも教員側には4年間でどのように履修可能なのかが不明な状況です。