《社会的需要を無視した教育組織の改編 初等教育教員養成課程の選修制廃止》(2016年4月10日)


 H28年度から福岡教育大学の教育組織は大きく改変されることになりました。これまで、初等教育教員養成課程という小学校教員を養成する課程では、国語、理科などの教科などの別に分かれた選修制の形が取られていました。教科など、と書きましたが、教科内容だけでなく、教育学や心理学を深く学ぶ選修もありました。

 H28年度からは初等教育教員養成課程の学生は、一律に同じカリキュラムで学ぶ形になり、1つの教科を深める機会は減ることになります。

 選修制は、入学者、教育現場、また、福岡教育大学の九州内での位置づけのいずれからも、ニーズに沿ったものであったと私たちは考えています。

 自分の得意な教科(芸術やスポーツも含まれます)を生かして将来教員を目指したい入学者には、その学びを深め、かつ教員としての力量も高めることは魅力となっていました。福教大のなかでは、理科や数学などの選修で教員就職率がよいという実績もありました。教育現場でも、教科を教える力は、児童を指導する力と不可分のものとして重視され、教員になっても得意科目を中心に研究するやり方は続きます。その研究方法や指導方法の基礎を身につけるために、教科に特化した選修制はメリットがありました。

 また、福岡教育大学は、九州の教員養成機能の拠点的役割を担う大学であり、総合大学の教育学部以上に各教科内容を教える教員も揃っています。その役割、規模、特徴からも、選修制の形は理にかなっていたといえます。東京学芸大学や大阪教育大学など国立の教員養成単科大学は、選修のような教科別の形態をとっています。

 教科等別の選修制廃止については、他にも懸念される点がありました。従来の選修制のもとでは、初等教育教員養成課程でも中学校一種免許が取得しやすかったのですが、今回の改編で中学校免許は取得しにくくなり、取得できても二種免までとなります。小中一貫や小中連携の方向性が示されるなか、他大学では、むしろ小学校免許・中学校免許の2つを取りやすくする形の改編が進められています。

 また、中学校教員養成の課程で小学校免許を取りやすくする大学もあるなか、福岡教育大学では、初等での選修制廃止のため、中等教育教員養成課程(中学校と高校の教員養成をする課程)での小学校免許取得もこれまで以上に難しくなります。

 もちろん小学校免許だけでよいという学生さんもいるでしょうし、ある教科に強い教員というより、学級経営や子どもの心理に詳しい教員になりたいという希望もあるでしょう。しかし従来の選修制でも、そうした希望は実現可能でした。従来と比べて、個性や希望に応じた多様な教員を養成することが難しくなってしまったのです。

 小学校教員になるには、ある教科に強いというだけでなく、全教科の基礎力も必要です。H25年度には、選修制のもとで全教科の基礎力を上げるカリキュラムが整えられました。しかし、そのカリキュラムの卒業生が出る前に、抜本的な教育組織とカリキュラムの改編が行われました。これも異例のことです。

 H28年度の新入生の方たちに徒らに不安をあおるつもりはありません。カリキュラムの範囲内で、免許取得や科目選択などで希望に沿える形を模索したいと私たちは思っています。そのためにも学内の意思決定を透明にする必要があります。